The view from the audience was preciously "Beautiful" ─ミュージカル『ビューティフル』初日に行ってきました

ミュージカル『ビューティフル』初日公演@帝国劇場お疲れさまでした。正直想像を遥かに超えるパワーで、いつものライブとはまた違う「スゴいもの見た感」でいっぱいです。

 

そこで、舞台女優・水樹奈々を目撃した今「ビューティフルここがスゴかったんですよポイント」を書き留めておきます。

 

※自伝モノなのでネタバレも何もないのですが、演出や構成に言及しているので未見の方はご注意ください。

 

(1)時をかける舞台女優


この物語は、16歳のキャロル・キングがドニー・カーシュナーというプロデューサーに売り込みに行くシーンから始まり、最後はカーネギーホールでのコンサートで幕を下ろします。コンサートは1971年に実施されたもので、当時キャロルは29歳。劇中で13年経過していることになります。
しかも、イントロとしてカーネギーホールのコンサートを前にして?葛藤するシーンが挟まっているので、開幕すぐに人生経験豊富な29歳から若々しい16歳にギアチェンジが必要です。

 

29歳キャロルがハケた後、「今急いで早替えしてるんだろうな~」などとニヤニヤしながら再登場を待っていたら、おぼこいスクールガールに変身したので度肝を抜かれました(一瞬誰だかわからなかった)。
声優の特徴のひとつとして「年齢に縛られない演技ができる」ことがよく挙げられますが、小学生からOLまで幅広く経験していることがプラスに働いたのではないでしょうか。声が若いだけでなく、動きもちゃんとピチピチしていたので、いよいよ16歳感が高まっていました。17歳よりさらに若い。

 

(2)負の感情表現のパワーアップ


あくまで相対的な話なのですが、奈々ちゃんは「明るさ、優しさ、謙虚さ、真面目さ」方面と比べると「怒り、憎しみ、悔しさ、嫉妬」方面の表現がやや弱い(というか人の良さが透けがち)と感じていました。
その点で一皮剥けたのがクロスアンジュだったと思うのですが、とはいえアンジュのような役がそうホイホイ来る訳でもなく。せっかく良い側面を見つけたのにもったいないな......と思っていた矢先、まさかパワーアップした姿をミュージカルで目撃できるとは思いませんでした。

 

ミュージカルなので当然といえば当然ですが、劇中歌には登場人物の感情が織り込まれます。第1幕の最後に登場した"One Fine Day"は、ジェリー(キャロルの夫)からの愛情を受けるジャネール(シンガー)と、堂々とオレ不倫します宣言をされたキャロルが対照的に歌う曲。「君と離れたくはないけど、ジャネールとも一緒にいたいんだ!」という完全に舐め腐ったジェリーの宣言を受けたキャロルの歌唱は、ジャネールから引き継いだ出だしこそ動揺して弱々しいものの、曲のクライマックスに向けて失望と怒りを増幅させ、最後は怨嗟のような台詞を吐き捨てて第1幕が終わります。

 

このシャットアウトのような幕切れは衝撃的で、頭を殴られたような余韻がしばらく消えませんでした。そして、奈々ちゃんからこんな恐ろしい声が聞けるとは思っていなかったので、正直戦慄しました。

 

(3)最小限の情報で最大限の表現を

 

最近芝居を見ていないという予防線を張りつつですが、ビューティフルは(公演時間に比して)台詞量がかなり少ないのではないでしょうか。というのも、キャロルの人生を振り返りつつ、節目節目でヒット曲をいかに入れるかが見どころのひとつなので、日常芝居は最低限に留めたほうが良い訳です。そうなると、ミュージカルでよく見る「登場人物AとBがやり取り→Aハケる→残されたB、独白からの歌唱→シーン転換」といったフォーマットなんかをやっている時間がありません。あくまで「キャロルの人生のこのタイミングでこんな出来事がありました」というラインを辿っていくことになります(もちろん、メリハリをつけるために重要なシーンは肉付けされているはずですが)。

 

ということは、一般的なミュージカル以上に、歌でいかに感情を表現するかという点が重要になってきます。さらに、(1)で言及したように、年齢による変化があること、また短い時間で目まぐるしく環境が変わる人生を辿ることから、開幕~終幕までにかなり変化をつけて歌わないと、ストーリー自体が弱まりかねません。

 

(2)の "One Fine Day"までの曲は、若いときならではの軽やかさであったり、ジェリーとのラブラブ感や幸せ全開っぷりが伝わる歌い方がメイン。 "One Fine Day"を挟み、第2幕からは次第に厚みを増してきます。また、第2幕もジュリー決別前後では明らかに歌い方が変わっており(決別前はそもそも曲数があまりないかも)、とくに自身のアルバム制作を機に過去を乗り越えていく"Natural Woman"では、完全に覚悟が決まっている状態。ここまで来ると歌以前に音圧が凄まじく、波というより面で歌が迫ってくる感覚でした。反対に、 観客に聴かせるためでなく、友人に贈る歌である "You've Got a friend"は優しさに溢れていて、自然体で歌う奈々ちゃんを見て、思わず笑顔に。

 

クライマックスの"Beautiful"は、ピアノに向かう足取りからして輝かしく、シンガーソングライターとしての頂点に登りつめた喜びと、道のりの苦しさを思わせる厚さと豊かさでした。イントロでほぼ同じシーンを見せられているので、その対比が最高の瞬間をより盛り上げてくれます。 個人的には、湯川先生の訳詞と奈々ちゃんのキャラクターが相まって、キャロルという人間を作り上げた全ての人に感謝するという側面を強く感じました。

 

 

まだ初日公演が終わったばかりの『ビューティフル』。まだ何公演分かチケットを持っているので、リピートで見に行くつもりです。とくに、「ミュージカルは突然歌い出すのが苦手だし......」と尻込みしている方にこそ見て欲しいですね(シンガーソングライターの話ということもあって、無理矢理曲へ繋いだ感が少ない)。

ステージでの姿があまりにもハマっていて、なんなら「もともと舞台女優でしたけど?」くらいの貫録がありました。そのぶん、もっと早い段階でミュージカルに挑戦しても良かったのでは……と思わなくもないのですが、やはり今だからこそできること、ご縁があったからこそ実現したこともあると思うので、そこは今回 『ビューティフル』 を見られた幸せを大事に噛み締めます。

最高のステージをつくってくれたすべての人と、
「声優・水樹奈々」「アーティスト・水樹奈々」につづいて、「舞台女優・水樹奈々」との出会えた幸運に感謝を。