アニセミ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』アニメメイキングセミナー お疲れさまでした。

参加された皆さま、お疲れさまでした。紛うことなき神イベでしたね。
このイベント、もっと他の作品でもやってほしいなあ。監督と美術さんとか(どろろでPablo呼ぶとか良くない?)、セクション掛け合わせる形のイベントということで。


長丁場でしたので例によって精度はアレなのと、発言はかなり丸めてあるので何卒お願いします。見出しの都合で、実際の資料や説明の流れとは違うところもあります。
あと、堅苦しい話をしたように見えたらすみません。お三方とも楽しくゆるく、締めるとこはちゃんと締めるトーク力だったのでとても盛り上がったのです。もっとやって!!!

 


第1部:監督・演出


監督はご自身が使っていた第1話のコンテを持参。ミスターホワイトが描かれている表紙は監督オリジナル。ちなみにめちゃくちゃ付箋が貼ってあり、使い込まれっぷりが伺えます。


プリプロダクション:キャラクター設定


・監督が一番心がけたのは、「キャラをキャッチする(してもらう)こと」。とにかくお客さんに9人の舞台少女を受け取ってもらいたい!キャラを愛してほしい!という気持ちで作っていた。ストーリーやテーマはその後。


・舞台との二層展開式なのが特徴で、舞台版はアニメ3話までの脚本を渡してから作ってもらっている。
舞台は、70分のなかで一番キャラが際立つ形に組み直してもらっていることが特徴(=アニメ版と舞台版は並行して作業している)。舞台が先行したことで、アニメに反映されたものも多い。


・インタビュー等でもよく言っているが、「歌ものではなく演劇だと"突っ張る"」ことがオリジナルコンテンツとして大事なことだった。
歌ものというだけだと他のコンテンツと差別化できなくなってしまうので、ボケないようにとにかく舞台に紐付けた。


プリプロダクション:キャラクターコンセプト


・タイトルの初期案は『きらめきのレヴュー★アルテミス』。ロゴはヅカっぽいネオンパネル調で今とだいぶ違う雰囲気。ただし、舞台モノであることや、ネルケプランニングとの二層展開式であることは当初から決まっていた。


・「愛城華恋」というキャラクターの名前は最初期から設定があった。名前は樋口さんがつけており、並行して文章ベースでのキャラクター設定も作成されていた。ちなみに、最初~最終稿まで華恋の名前は変化なし。
・ただし、華恋の最初のキーキャッチは『私がなんとかしてあげる!』。当初はおせっかいな主人公キャラという想定だった。


・このキーキャッチは、あくまで樋口さんが作成した叩き案。「最初から詰め切らないことが大事」と考えている古川さんにとって、最初にテンプレート的なキャラ案をつくってくれる樋口さんにはとても助けられた。
・最終的に『スタァライトしちゃいます!』というキーキャッチが出てきたことには、最高の一言。キッズものも手がけられている樋口さんの強みが出たのかも。


・小出さんは、最初は古川さんが欲しいものを見極めようと、いろんなボールを投げてくれた(非常に速筆なこともあり、大量に描いてくださったとのこと)。
・小出さんの初期案は、意図的に振れ幅を持ってデザインされていたが、古川さんとしては、キャラクターには共感性と一般性が大事だと考えていた。そのため、絵柄自体にパワーがあることよりも、キャラの感情に共感してもらいやすいデザインであることを重視して最終案に着地した。


・古川さんが作成した華恋の表情設定用メモでは、比較的テンプレっぽい表情が多い(ただし、メモの文末にいちいち(カワイイ)と書いてある)。


・キャラ設定も、中期案になってくると今の形に近づいてくる。ただし、この時点ではクロディーヌはおらず、代わりに『かのん』というロリキャラがいた。また、香子の名前も『しのぶ』になっている。
※中期案の絵は、キャストオーデのときに絵がなかったので斎田さんが描いたもの。最終版よりもやや幼い印象だが、斎田さんの特徴であるシャープさは感じられる。


・実は、クロディーヌは真矢との"疑似姉妹"をつくろうとしてできたキャラ。
真矢クロは属性が被っているのだが、そういった場合は似ていること自体を個性にしてしまう(例:セラムンのうさみな)。2人に同じ動きをさせて対比・対立させるのがおもしろいという考えから、クロディーヌというキャラクターが生まれた。
……というように2人組をつくっていったところ、最後にまひるが残ってしまった……。
・古川さん「ただ、僕は箱推しなので!!!」

 


こぼれ話1:ばななサイドテール事件


古川さんはじめスタッフは「ばななはツインテじゃないとダメだ!」派が多かったが、ばななのポジションを鑑みると、ぽやっとしたビジュアルで良いのか…という大人のご指摘があり、サイドテールばななも案としては存在した(たしかに、ややキリっとしてみえる)。
ただし、ばななは「普通の願いを持つ普通の女の子である」ことに意味があると考えていた古川さんは、ツインテール案で押し通した。

 


こぼれ話2:そもそもなぜスタァライトの監督を引き受けたのか?


実は、ブシロードコンテンツであること自体が面白いと思って引き受けたところがある。
作品自体はミルキィホームズ以外見たことがなく(ミルキィはお好きだった模様)、自分から遠いところにある作品群だった。今まで一緒に作業してきた幾原監督とは違う畑でやってみるのもいいなと思ったし、逆にブシロード作品で演出に力を入れるのも新鮮ではないか…と考えて引き受けたとのこと。

また、多くの人に見てもらいやすいパブリシティの強さを持ち、かつイベント等でリアルと接点があるのもいい。


プリプロダクション:衣装


ブシロードからは、「舞台モノで、9人で、カワイイよりかっこいい寄り。舞台映え重視!」というオーダー。
・舞台に映えてかっこいい衣装なら軍服かな…と思いつつ、歴史っ子だった古川さんは、今までアニメでやっていないであろうユサールに目をつけた。
「(マントが)片側についてるってザクだよね!!!」とスタッフに熱弁したとのこと。


・この片側マントは単純な衣装デザインに留まらず、「スタァライトってどういうコンテンツ?」と聞かれたときに説明しやすいように、という狙いもあった。
コンテンツを説明するときに「片側マント」「キリン」というように、一言で言い表せないオリジナルコンテンツは弱いと考えている。
・また、舞台映えする衣装はコスプレしてもらいやすい衣装でもある。SNSで落書きやコスプレをアップしてもらうことは、宣伝効果を考えると超重要。
SNSでパッと見た時に、人は「(完全に新しいものではなく)見たことがあるけどちょっと違うもの」でないとキャッチしづらい。そういう意味でも、リアルと地続きな軍服は優れていた。
この「入ってきやすいけどちょっと違う」ことは、一般性を獲得するためでもある。


スタァライトでは、衣装をシルエットという側面でも検討しているのが特徴的。
それは、古川さんが「キャラクターのイメージはアウトラインで決まる」と考えていることに加えて、「シルエットで作らないとディティールの勝負になってしまい、作り込み=スタッフの力量次第になってしまうから」という理由がある。
・さらに、シルエットが良いと、多少作画の力を抜いたりロングにしてもキャラクターを判別しやすい。このあたりはスタジオによっても考え方がちがうが、古川さんとしてはクオリティコントロールの一環であると考えている。「最低ラインを守る(守りやすい状態を作る)」ことで、現場の力が100%でないときでも、スタァライトであることをキープできる
・古川さん「やっぱり美少女もので(顔の)作画が崩れたら悲しいじゃん!!!」


・武器に関しては、舞台との兼ね合いもあるため、立ち回りができて現実ベースになるように意識してデザイン。あまり凝りすぎると武器=キャラクターになってしまいかねないため、良い意味で凝りすぎないようにしているそう。

 

・キャラクターの持っている小物類の設定をつくってもらうために、キネマシトラス内でかわいいイラストをいろいろ描かれていた谷さんを指名。
・小物類は、一度つくっておけば設定を後付できる(◯◯からもらったもの等)ので便利。二次創作も捗る!

 

・私服の初期案では、華恋はもっとモガっぽい感じだった(赤と黄色のツートンワンピース)。
・しかし、小出さんの名言「オタクは自分の範囲内でないおしゃれは受け付けない!」で現在の案に(これも一般性の一種)。
・私服ではないが、レオタードは画面内に対比物をつくるという目的で、真矢クロだけ別物にしている。

  

・キリンについては、ブシロードからは「グッズ化するときに生キリンだとやりづらい……」とオーダーが入ったが、古川さんは断然生キリン推し。ネクタイをつける案などもあったが、生キリンのほうが面白いし、(動物園に?)会いに行ける。苦肉の策である「しっぽにリボン」でなんとか説得して、今のキリンに着地。わかります。


キャッチワード


キャラを作るにはワードが必要。「This is 天堂真矢」は単純な1文だけど、なんとなく言いたくなるし、それだけでごっこ遊びができる。また、ツイートのしやすさ(ワンワードでツイートできるかどうか)を意識すると、アニメの共体験である実況文化圏でひとつ強みができる(トレンド入りもしやすいし!)。
・ただし、これはブシロードコンテンツであることや、キャラモノであるからやったこと。ストーリー重視の作品だったらやらなかったはず……とのこと。


・このあたりの仕事は、監督ではなくプロデューサーの業務領域ではないか、という指摘も(今回は司会の方から)あるが、古川さんとしては、監督の仕事に領域はないと考えている。
そもそも、ご自身が語呂で遊ぶことが好きだし、一緒に作業していた幾原監督も普通の監督ではなかった。どちらかというとプロデュース領域でとくに強みを発揮するため、その影響を強く受けているのでは。ただ、古川さんはより「自分で手を動かす」ほうに近いという違いはある。

  

こぼれ話3:アニメの肌色問題


・アニメで肌色が出てくると「肌色だ!」となってすべてが吹き飛んでしまう古川さん
・ご自分でコンテを描いたが、実際に放映されたお風呂シーンでビビる小出さん

 

 キャストとキャラクターの相互反映:調査シート


・キャラクター造形にあたって、キャストに聞き取り調査をした(科目や食べ物の好き嫌い、その他)。これは古川さんも樋口さんも、キャストに自分のキャラだと思ってほしいという意図もあった。
・本来こういった調査は難しいが、舞台のゲネプロ等でキャストが集まる機会があったため、ブシロードのPに聞いてもらえてラッキーだった。
・小泉さんのカエル好きなどはそのままキャラクターに引き継がれているが、主人公である華恋は意図的に外しているところがある。華恋は感情やストーリーの担い手なので、ディティールをつけすぎると本筋からずれるため(ただし、作っている方は楽しい)。


プリプロダクション:コンセプトと世界観


わかりやすいこと、視聴者と同じ地平であること、見たことがない発明であること、の3つが柱。


・「なぜ塔なのか?」を記したビジュアルメモを引用。必要なときに立ち戻るための資料を作りたかったが、意図的にあまり絵をかかないようにしていたため文章で作成。

※監督が描くとそれがスタッフ間での「正解」になりがちなため。


・東京タワーはすでにキャラクターであることや、だいぶ寸法が違っても、特徴を押さえておけば東京タワーだと思ってもらえるメリットがある。
・東京タワーの下にある白いタワーは「定点」として設定。スタァライトでは、レヴューの演目ごとに舞台セットが変わってしまう(舞台が共通であることがややわかりづらくなる)ので、変わらない定点として白い塔を置いた。
・ちなみに、見本は池袋の焼却炉とのこと(古川さんは学生時代大塚に縁あり)。3Dで作成しているが、白い多面体なので、シャドウをバキッとつけたり、スポットライトの効果が出やすいというメリットも。

 


プリプロダクション:舞台案


・第1話では、演劇セット内で戦い演じることを伝える必要がある。そんなときに出てきたのが、プロセニアムアーチを置く案。
・ポイントは、アーチが立体ではなく平面であること。舞台っぽさを出すために、Pabloには「本物の布ではなく、木の板に布を描いている」という発注をしている。

 
スタァライトの舞台には新たな発明が必要!ということで編み出されたのが、3D照明。
・もともと、照明が入る位置に(印になる)棒さえ描いておけば、撮影処理で後からなんとかなることはわかっていた(全部作画でやるのは大変すぎて無理)。通常、ライブシーンなどではダンスにお金を割くことが多く、ライトの動きは単純であることがほとんど。一方、スタァライトは演劇なので、ライトとそれが当たるキャラクターを大事にしたかった。
・ちなみに、3D照明はポリゴンの棒を動かしてもらっている。3D照明の映像がPVに間に合ったことで、期待値を上げられたのが良かった。


・最終回の砂漠のイメージボードは、古川さんご自身が作成。
・砂漠自体は現実に存在するが、ピンクだったり、空が夜でも昼でもない色をしているなど、見たことがあるのに新しく、この世ならざるもの感を出せたのでは。
また、ここでも定点である塔を出すことで、舞台の一部であることも示唆し、新しさと連続性を出している。
奥に倒れている東京タワーは2人の約束を示しており、2人の夢が死んでいることを象徴している。


プリプロダクション:絵コンテ


絵コンテとは、設計図ではなく地図であると考える古川さん。
・設計図だと、スタッフが共有する図面という印象だが、キャラクターやテーマをお客さんに伝える・届けるためにどういうルートを通ればいいのかを指示するものと考えている。


・第1話のレヴューシーンは、一度描いた絵コンテを物理的に切り貼りして作成された。もともと、第1話ではレヴューを1から開発をする必要があるため、必要な要素を書き出して切り貼り・シャッフルを繰り返した。
※実際にコンテコピーを持ち込み、ハサミとテープで切り貼りされてました。

・比較的珍しいやり方だと言われるが、作業するスペースを物理的に広げると、引きで、かつ多人数で同時に見ることができる。感情の流れも整理しやすいので非常にやりやすかった。
ユリ熊嵐の作業中も、幾原監督とボードにいろいろ貼りながら「作ってる感あるな~!」と言い合っていた(それと実際の進捗は別問題)。

 
・いわゆるコンテ撮ではなく、Toon Boomというソフトを使用してコンテムービーも作成。音楽チーム含むスタッフにテンション感を共有することが目的。新ソフトを導入することで新しい発見があるかも!と思ったが…ただ、尺もわかるのは便利だったとのこと。


・第1話で東京タワーから落下する華恋のシーン。本体はなくても成立するが、Aパートで「このアニメは何か違うな」と思われることをしたいと考えて入れることに。また、Bパートで華恋は自ら望んで落下していくので、それとの対比をつける意味でも。
・27秒という非常に長い尺だが、長いからこそ特殊な印象を与えられるうえ、他のシーンと比べたときに音楽的なメリハリもつけやすい。


ストーリーではなくキャラを立てる・届けるためにすべてやってきた古川さんの気持ちは「箱で推して!」とのこと。

 


古川さんからのメッセージ(だいぶ意訳)


アニメ制作(もっというとクリエイティブな仕事)では、自分の人生から捨てることになるものも多い。モテない儲からない未来が見えない
が、アニメであればフィルムは残る。
12年間アニメ業界で仕事をしてきたが、5年くらいで自分の才能が見えてきて、スタァライトを作っていくなかで自分が何者かがわかり、そしてフィルムが作りたいんだということに気がついた。業界12年の間で、後悔した仕事はない。失敗したことがあっても、それはスタァライトに生かせたから。
人生の全部一部を捨ててでも、後悔しないために自分はフィルムを手放さない。

 

 

 
質疑応答


Q:衣装デザインがアニメと舞台で違うのはなぜ?
A:舞台用は舞台に映えるように変えている(柄を入れるなど)。


Q:スタァライトを作るにあたり、インスピレーションを受けた作品は?
A:自分の人生! 実際に、自分だったらこう言われたかった、こういう人がいてほしかったという経験が盛り込まれている。これは古川さんに限ったことではなく、一般的に10代までに通過したであろう気持ちをキャラに入れ込んでいる。


Q:最近、作品の評判を聞いてからまとめて見るという視聴スタイルが増えていますが?
A:作り手も…というか、ブシロードが強く意識しており、それが一挙放送につながっている。
とくに、ログインの必要がないYouTube以外(のプラットフォーム)は考えられない。一挙放送はすべての作品でできるわけではないが、強力なバックアップになった。


Q:オーディションに負け、きらめきを失ったひかり。普通はどうなる? 舞台に立てなくなる?
A:舞台には立てなくなるかも。ただし、華恋のようにあきらめなかった子や、別の道に行った子がいたかもしれない。気になるので、二次創作でぜひ!


Q:『世界を灰にするまで』は戯曲スタァライトが原典なのか?
A:全てのレヴューは戯曲スタァライトの各章であり戯曲の一部。『恋の魔球』などは古典とは思えないかもしれないが、それ自体は問題ない。なぜなら、全てのレヴューは、各キャラクターの現代アレンジであり、再解釈であり、再演であるから。

 

 


第2部 映像と音楽制作

 

 


スタァライトの音楽とは


・歌劇であること、二層展開式であること、レヴュー曲がフィルムスコアリングであること、作曲家2名体制であることなどが特徴的。
・フィルムスコアリングはアニメに限った手法ではないが、スタァライトでは絵の尺に沿って音を当てていく方法が取られ、とくにレヴュー曲においてその特性を発揮した。
・演出の立場からすると、コンテを早めに上げたり、どの話数で何をするかを決め込む必要があるため、スケジュール感が難しいという一面も。ただ、音楽チームは厳しい進行のなかでも最高のものを上げてくれた。

 


レヴュー曲と劇伴


・古川さんにとっては、初監督・初音楽発注。ブシロード10周年祭用PVの音楽のオーダーは「フィリップ・グラスで」。リフレインするところや清潔感が、演劇学校の特殊性を表現できるのではないかという意図だった。
・山田さん含め音楽チームは、舞台が始まる前の脚本打ち合わせに呼ばれていたが、その時点ではあまり情報がなかった。かなり早い段階での招集になったのは、楽曲面での作品の引っ掛かりづくりを作曲家の皆さんにお願いしたかったという面も。


・古川さんにとってラッキーだったのは、一緒に作業をしていた幾原監督が東映出身だったこと。東映では演出と音響を兼ねるので、輪るピングドラムの制作時に根掘り葉掘り幾原監督に聞いていたことが役立った。

たとえば、ストーリーの中心におけるようなテーマ曲を作っておくと良い、などなど。普通、「学校」「日常」「緊張感」といったシーンでのオーダーになるが、そういったオーダーでは"いつもの感じ"になってしまうことも多い。古川さんはキャラクターや脚本を起点にして発注しつつ、足りない部分は音響監督の山田(陽)さんにカバーしてもらっていた。監督が音響にまで携わるのは比較的珍しいが、画を音楽でカバーできることもあり、音楽との関わりは強く持ちたかったとのこと。

 


スタァライトの作詞(中村さん)


スタァライトでは楽曲の作詞や戯曲の脚本を手がけた中村さん。普段はポップスやアニソンの作詞でも活躍されているが、それぞれ取り組み方が異なる。
ポップス:人間が歌うので、世界観を作り上げることよりも、歌う人を出発点にする。
アニソン:世界観を一緒に作ったり、キャラクターを補強できるようにする。
・通常、キャラソンやOP/EDは、脚本やキャラクター設定をもらって作詞する。対面の打ち合わせはほぼなく、メールのみでのやりとりが多い。
・一方で、スタァライトではキャラクターや戯曲、レヴューを作るために脚本会議に参加。しかも、会議の内容を把握するだけではなく、キネマシトラスの小笠原さんから意見を聞かれることも多かった。戯曲をつくることになったのも、小笠原さんによる「中村さん、絵本かいてたよね?続きいってみよう!」という一声がきっかけ。
・振り返ってみると、脚本会議に出たことで、非常に大きい影響があった。今までは、出来上がった文字や絵が来るだけだったが、作品が形作られていく過程をリアルに見られたことで、背景や過程をたくさん蓄積できた。


OP「星のダイアローグ」の作曲(山田さん)


・通常OP/EDはコンペ方式だが、舞台版の曲も手がけていた本多さんが作品の世界観を一番理解してくれているということで指名発注した。ただし、いつもは音源として渡す参考曲を、打ち合わせで一度しか聞かせず(追って補足はしている)。今までと違うことをやらねばならない作品だったので、できあがっているものにあまり引っ張られたくないという意図があった。
・ただし、補足の内容がまたなかなか厳しい。作品自体の情報に加え、テンポ感、大会場で公演する可能性、舞台モノとしてのドラマチックさなどなど。とくに、「声優アイドル曲ではなく、ミュージカルを書いたら90秒だった的な偶発感」は、決め込むのではなく、プロがうっかりつくっちゃった的な音楽が欲しかったとのこと。


・上がってきた楽曲への戻しはいくつかあったが、そのなかのひとつがBメロを変拍子にしたこと。結果的に、サビの前で「アタシ再生産」を出すタイミングが生まれた。OP曲を受け取った古川さんは、小出さんたちと「どうしよう!?」となったが、とにかくやる気が出たことを覚えている。


レヴュー曲『世界を灰にするまで』(山田さん/中村さん)


・作曲としては、キープしておいた舞台用のデモが形になった曲。スタァライトという作品のゴールを古川さんのほうで模索していた時期でもあり、通常3~5回の出し戻しで済むところ、20回(1ヶ月)ほどやりとりがあった。
・作詞としては、いわゆる挿入歌ではなく、舞台装置やセリフと地続きであることを意識して作成。作業はコンテムービーをベースに行っている。画面に写っている人と歌っている人を一致させる、セリフの内容と曲をシンクロさせる、キャラの変化に歌詞が追従しなければならないなど、OPと同じ作り方にはできなかった。さらに、レヴュー曲は戯曲スタァライトの一部でもあるため、非常に制約が多い中での作詞になった。
・こういった制約はオーダーされたことではなかったが、それを実現できたらすごいだろうな、という気持ちで取り組んだ結果が成果として表れた。

 


BANK曲(山田さん)


・古川さんから「レッド・ツェッペリンの『移民の歌』を参考にしてください!」というオーダーが入り、作曲家の加藤さんはビックリしたものと見られる。その後、レッド・ツェッペリンからの連想ゲームを経て、かつ「女性の声を楽器として使いたい」という古川さんの要望も詰め込んだ形で完成。
・ちなみにBANKは曲先行。曲が上がってきたとき、山田(陽)さんやPから(このBANK曲で大丈夫かどうか)心配する声も上がったが、最高のものが上がってきた古川さんが説得した。


レヴュー曲『RE:CREATE』(山田さん/中村さん)


・作曲としては、長尺なので飽きさせない展開が必要だった。
・作詞としては、8話まで来るとレヴューの作詞にも慣れてきて、歌劇に近づけるために歌い継ぎややりとりをより意識していた。RE:CREATEは、思わず泣いてしまうほど最高の曲が来たので、とくに思いが乗った。実際の歌詞としては、第2幕に変わる「開くわ」が最初に嵌ったところ。「作曲した側も、この4文字は開くわだと思って作曲しているはず!」という思いで、その前後を広げていった。


・8話の時点では、かなり制作スケジュールが厳しい状態にあった。しかし、最高の曲と最高の画面を見てもうひと押ししたくなった古川さんから樋口さんとデザイナーさんに即電話が入り、「第2幕」のテロップが入ることになった。V編会場でPを待たせていても入れなければいけないテロップがある。結果的に、できあがった映像を見た光田さんが感動してくれたのも良かった。
・ちなみに、8話レヴューで起きた波でキリンが溺れる(セリフがゴボゴボになる)説があったが、感動的なシーンが台無しになるのでボツに。


こぼれ話4:セリフが歌になったシーン


・3話レヴュー曲の『より高く、より輝く』は、もともとセリフにするか歌にするか迷っていたところだった。しかし、「『だからこそ私は』というセリフから『より高く、より輝く』という歌に繋げるのがミュージカルらしい」と考えた中村さんにより、ここはセリフではなく歌に決まった。

 
こぼれ話5:大ボリュームの生オケという贅沢


スタァライトの生オケは、弦楽器で24人とかなりのボリューム。普段は辛口の山田(陽)さんも、スタァライトの打ち上げでは楽曲からオーケストレーションからべた褒めだったとのこと。


まとめ:作詞とは(中村さん)


眼の前にいる人を感動させないと、遠くにいる人は感動させられない。また、自分で感動できないものは、眼の前にいる人を感動させられない。自分で作ったものにも自分で感動しながら作詞をしていくことが大事。
※古川さんも、「面白いコンテを描いてしまった……」となる時がある模様。

 


まとめ:監督からみた音楽チーム

・古川さんとしては、チームにももちろん恵まれたが、舞台先行だったことや、すでに舞台版の曲があったことなど、非常にラッキーなことが多かった。各セクションとキャッチボールのたびに高め合ってきたが、キャラを届けることに全セクションが全力を注げたことが結果につながった。

 


質疑応答


Q:『星々の絆』のラテン語はどういう意味?
A:小泉さんから録音当日に提案され、コーラスで入れることを決めた(小泉さんは元コーラス部でラテン語を歌う経験があった)。そのため歌詞にはないが、女神というキーワードは入っている。
ちなみに、レヴューシーンは演じる人を(2人なら2人)集めて一緒に撮っていた。うまく歌うことよりも感情を乗せることを優先してもらっていたが、今度は涙もろい人(小泉さん相羽さんなど)が我慢しなくてはならないことに……。


Q:2話と10話のレヴュー曲は舞台版アレンジ。なぜここで?
A:2話は舞台版との連動感を演出するため。10話の『Star Divine』は使う予定ではなかったが、監督が(『舞台少女心得』と合わせて)マストだということで使用。
中村さんいわく『Star Divine』の2番は、レヴュー曲がないクロディーヌのために(舞台版から?)差し替えられている。
また、クロディーヌは名乗りも脚本上ではなかったが、後から付け足された。3D照明の神谷さんにも盛ってもらえて、結果的には良い口上に。


Q:舞台版の先生は、アニメになぜいないのか?
A:たしかに先生のキャラは強いが、アニメでは9人の舞台少女を描くことが目的だったから。
ちなみに、椎名へきるさんにお会いした古川さんは「レイアースだ!!!」と思ったとのこと。


Q:スタリラの展開は当初から想定されていた?
A:プロジェクトとしては視野に入っていた。


Q:クオリティコントロールにおいて、チームで死守すべきラインとは?
A:キャラの感情がお客さんに届くか、寄り添われるキャラになっているかどうか。とくに印象的なシーンでは、動きがどうこうではなく、お客さんが見たいキャラが描けているかどうかが大事。やたらめったら頑張るのではなく、頑張りどころを絞り込む
幾原監督は、その技術がとても高い。どうしても、作品のテーマ性やご本人の目線など作家的なところがクローズアップされがちだが、枚数に頼れない東映出身ということもあり、音楽などでいかに盛り上げるかという技術が一番すごい。作画や美術に頼らないのは、古川さんご自身がやりたかった作り方。それを目の前でされたので、一緒に作業をしながらそれを全部盗んだ。幾原監督と出会ったのは29歳のときだったが、今は、それまでの経験と、幾原監督から得たものを結びつけて作品を作っていっているところ。


Q:(中村さんに)作詞家が脚本を担当されるって意外ですよね?
A:キネマシトラスの小笠原さんが「歌詞も書いてるし、(戯曲も)書けるんじゃない?」と仰ったのがきっかけ。もともと、戯曲づくりは脚本会議などに出た実績がないと厳しいが、全話脚本を担当される樋口さんには難しい状況だった。そのため、中村さんがチャレンジすることに。
一部ボツになったアイデアなどは、スタリラに生かされているらしい。